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梅の香り

Shinya

梅/香り/見事な枝/カウンセリングオフィスフロローグのコラム

 梅の花の季節になりました。
 暦の上では春を迎えたとはいえ、まだまだ冬の気配が優勢な景色の中で、いち早く開花して目を楽しませてくれる梅の花に、近づいてくる春を感じて、励まされるような気持ちになる方も少なくないかもしれません。梅は桜と違って、咲いている期間が長く、枝ぶりもごつごつとしていて、可憐な中に力強さも感じられる花であるように思います。
 日本では、梅の花も桜と同様に古くから親しまれており、現在の元号「令和」の典拠となっている万葉集の序文にも梅の花は登場しています。

   初春の令月にして
   気淑く風和らぎ
   梅は鏡前の粉を披き
   蘭は珮後の香を薫らす (万葉集序文より)

 また、梅の花は香りがよいことも魅力のひとつでしょう。夜などで花の姿が見えていなくても、香りからその存在に気付くようなこともあるのではないでしょうか。万葉集以降でも梅の花は和歌に詠まれ、その香りにも触れられています。

 人はいさ 心も知らず ふるさとは 花ぞ昔の 香ににほひける  (紀貫之)

 東風吹かば にほひおこせよ 梅の花 主なしとて 春な忘れそ  (菅原道真)

 君ならで 誰にか見せむ わが宿の 軒端ににほふ 梅の初花  (源実朝)

 これらの歌の中で、梅の香りは人の思いや記憶と深くつながっているのだということが感じられます。
 私たちの日常の中でも、ふと漂ってきた匂いで、過去の経験や感情を思い出すということは、多くの方が体験していることかもしれません。
 実は嗅覚は、脳の中で記憶や感情を司っている大脳辺縁系の海馬に直接伝わる唯一の五感と言われています。つまり、香りは記憶や感情にダイレクトに影響するのだと考えられます。

 ストレス対策として注目されている「マインドフルネス」は、五感を使って、そこに意識を向けることで、心と体の調和を促す方法です。具体的には色々な方法がありますが、好きな香りを味わうこと、そのこと自体がマインドフルネスになるとも言われています。
 自分にとって心地よく感じる香りを深呼吸をして感じてみる…、この方法であれば、比較的気軽に取り入れることができるのではないでしょうか。この時に大事なのは、一般的によいとされているというだけでなく、ご自身のよい記憶や感情と結びついている香りを選ぶことでしょう。例えば、ラベンダーの精油の香りには安眠効果があるとされていますが、その香りがよくない記憶と結びついている人にとっては、効果が得られにくいと考えられるからです。
 ただし近年、「香害」という香水や柔軟剤などの合成香料による健康被害について話題になることが増えてもいるため、ご自身で香りを用意される時には注意が必要でしょう。

 「春告草」とも呼ばれる梅の花の香りを味わったり、ご自身が心地よく感じる香りを見つけたりすることで、ご自身の心と体と上手に付き合っていくきっかけ作りになればと思います。

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