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桜の季節に

Shinya

桜の季節に/国立駅大学通りの桜の写真/カウンセリングオフィスフロローグのコラム

 今年の春は桜が早く咲き始めました。
 フロローグが入っている建物の前には、桜の木があります。
 また、フロローグのある国立市は、たくさんの桜の木があり、桜をとても大切にしている街です。JR国立駅の南口からJR谷保駅まで続く大学通りの桜並木や大学通りと交わるさくら通りは見事な桜の名所となっていますが、長年、地域の方々が愛情を持って守ってこられていると伺います。
 国立市のHPによると、「昭和8年(1933年)、上皇陛下が皇太子として御生誕されたことを祝し、そのころ「大学町(だいがくまち)」と呼ばれていた現在の大学通りの住民たちが「国立町会(くにたちちょうかい)」という会を結束し、昭和9年(1934年)から翌年にかけて大学通り両側の緑地帯へ、当時の谷保村青年団の方々と一緒に桜の木々を植樹しました。」とのことです。
 毎年、桜の花の季節には、思い思いに花を楽しむ人々が通りを行き交う姿が見られます。
 ここ数年は新型コロナウイルス感染拡大の影響から宴会スタイルのお花見は自粛されていますが、レジャーシートを敷いての飲食などはしないとしても、桜の花を見に行こう、桜の花を楽しみたいと思う方も多くいらっしゃるかと思います。開花や見頃の時期を思って、ついついそわそわしてしまうのは日本人の習性と言ってしまうのは言い過ぎでしょうか。

 現代でも日本人の生活に深く根付いている桜ですが、日本書紀や古事記には「木花咲耶姫(このはなさくやひめ)」や「衣通郎女(そとおしのいらつめ)」という神様を通して桜の花を思わせる記述があり、「桜は美しく短命」「美人の象徴」というイメージはすでにあったようです。
 弥生時代には、日本に稲作、農耕文化が伝わってきたことに伴い、穀物の神が宿る神聖な木として扱われていたと言います。
 そして、奈良時代にはお花見の原型ともいえる風習がすでにあったと言われています。ただし、奈良時代は桜よりも梅の方が人気があったとの説もあり、当時のお花見は梅を鑑賞するものだったようです。奈良時代に成立したとされる現存する日本最古の歌集である万葉集では、梅を詠んだ歌は約120首ほどあるのに対して、桜を詠んだ歌は40首ほどとされています。
 学生時代に、万葉集の時代には和歌で詠まれる「花=梅」だったものが、平安時代以降には「花=桜」と変わっていったと習った記憶がありますが、平安時代以降に桜の花を詠んだ歌は増えていくようです。
 季節の花を詠んだ歌は多くあると思いますが、桜の花を詠んだ歌には思わず共感してしまうものが多いように感じます。たとえば、平安時代の勅撰和歌集である古今和歌集に収録されている有名な歌二首をあげてみましょう。

ひさかたの光のどけき春の日にしづ心なく花の散るらむ (紀友則)

世の中にたえて桜のなかりせば春の心はのどけからまし (在原業平)

 表現の仕方は異なっていますが、どちらの歌でも、桜の花満開の華やかな景色を目の前にしながら、咲き誇る桜の花の季節との別れを予感している様子、あっという間にはらはらと散っていってしまう桜が詠む人の心を落ち着かなくさせている様子が、とても切実に伝わってくるようです。

 一方、桜にまつわる文学作品などの中には、陽の光の中の桜だけではなく、夜の闇に浮かび上がる桜の花の姿をモチーフにしていると思われる作品も有名で、それだけ桜の魅力は多面的なのだと思われます。

 和歌に限らず、桜の花を題材にした歌は現代でも数多くあり、「桜の歌」として一番に思い浮かべる歌は人それぞれ違っているかもしれません。ですが、やはり舞い散る桜の花とともに、出会いと別れ、最近では卒業などをイメージする内容が多いことは共通しているのではないでしょうか。
 桜の咲く季節は、現代の日本では年度の切り替わりの時期でもあり、卒業・入学、就職など、それまで慣れ親しんだ環境から新しい環境へ踏み出していく季節でもあります。
 新しい一歩を踏み出すことは、とても喜ばしく、誇らしいことであると同時に、別れ行くさびしさやかなしさといった感情も表裏一体となって存在しており、また、新しい生活、未知の世界へ向かう不安や戸惑いなども含んでいるかもしれません。
 そう考えると、華やかさとはかなさの両面を併せ持つ桜の花は、出会いと別れ、変化の季節である春を迎えるわたし達の心情と重なる部分が大きいように感じられます。だからこそ、神聖なほどに美しくもあり、時に妖しい魅力をも持つ存在でありながら、同時に自分の気持ちを託すことのできる桜の花は身近に感じられ、その満開の風景は一層魅力的に感じられるのかもしれません。

 自然や気候、環境や生活習慣などの変化の大きいこの季節は、華やかさや忙しさに紛れて、知らず知らずのうちにストレスを溜めてしまいやすい時期でもあります。また、周囲の変化に戸惑い、ひとりだけ取り残されたような気持ちを持つ人もいらっしゃるかもしれません。新しい道を歩き始めている人、これから歩き始める人、今は立ち止まっている人…、フロローグが、そういう方達のお手伝いをできればと思っています。

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