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災害とこころの回復力

Kamiya

災害とこころの回復力/梅の花の写真/カウンセリングオフィスフロローグのコラム

 日本は地震の多い国です。地震のほかにも台風や豪雨、土砂崩れ等の自然災害が毎年のように起こっています。新型コロナウイルス感染症等の感染症の流行も、自然に発生しているという観点からすれば、自然災害に含まれるでしょう。また自然災害以外にも、大規模な交通事故や電車の脱線事故、原発事故、火災、戦争等の人為的災害もあります。社会を揺るがすような大きな事件も、報道が繰り返されることによって不安な気持ちが強くなったり、過去のつらかった出来事が思い出されたりして、こころが落ち着かなくなることがあります。

 老若男女問わずスマホを持ち歩くようになり、さまざまな機能をもった家電が開発され、私たちの生活は昔に比べてとても便利になりました。しかし、災害と私たちの関係を考えると、誰もが災害を被る可能性があり、日々の暮らしのすぐそばに災害はあるといえるでしょう。

 このコラムでは、災害とこころの関係について触れていきたいと思います。

  1. 災害がこころに与える影響
  2. “こころのケア”ということば
  3. PTSD(心的外傷後ストレス障害)と記念日(命日)反応
  4. こころが回復していくために

1.災害がこころに与える影響

 災害を体験すると、人はさまざまな影響を受けます。災害がもたらす心理的な影響は主に3つあります。
 1つめはトラウマ反応と呼ばれているもので、その時の恐怖や記憶が突然よみがえったり、ちょっとした刺激に過敏に反応してしまったり、その出来事にまつわる情報に触れることができなかったりすることです。
 2つめは悲嘆反応と言われるもので、身近な人が亡くなったり住宅などを失ったりし、悲しみや喪失感、罪悪感などの感情が生じることです。
 3つめは、生活環境の急激な変化によるストレス反応です。慣れ親しんだ自宅を離れ、避難所や仮設住宅等での生活を余儀なくされることで、体調が悪くなったり気持ちが落ち込んでしまったりすることです。
 ここで大切なことは、これら3つのこころの反応はつらいものではありますが、思いがけない出来事に出会ったときの、こころの正常な、ごく自然な反応であるということです。“ときぐすり(時薬)”という言葉があるように、これらの反応は多くの場合、時間が経つにつれ少なくなったり弱くなったりしていきます。

2.“こころのケア”ということば

 災害や痛ましい事件が起きたとき、“こころのケア”ということが言われるようになりました。災害後の支援活動としてこころのケアの重要性が一般的に知られるようになったのは、1995年の阪神・淡路大震災がきっかけとされています。 被災された方の悲しみや恐怖、避難所での過酷な生活状況がマスメディアを通して報道され、目に見える物理的な支援だけでなく、目に見えない“こころ”に対してもサポートが必要であることが共有されるようになりました。 災害などの大きなストレスを受けたときにはこころが弱ってしまうこと、こころが弱っているときには早めに手当てをした方がよいこと、こころをケアする方法の1つとして“その方の話に耳を傾けること”の重要性も広く知れ渡るようになりました。

3.PTSD(心的外傷後ストレス障害)と記念日(命日)反応

 災害によって生じたこころのさまざまな反応は、そのほとんどは正常な反応で、時間の経過とともに改善していくことが多くみられます。
 しかし中には、PTSD(心的外傷後ストレス障害:Post Traumatic Stress Disorder)やうつ病、不安障害、身体症状性障害、アルコール依存等が引き起こされたり、あるいは以前からのこころの不調が悪化したりし、普段の生活に不都合が生じることもあります。
 また、心理学(精神分析)のことばで「記念日(命日)反応 anniversary reaction」というものがあります。大切な人やもの(身体や環境等も含む)を、その死や生き別れによって失う体験を「対象喪失」といいます。対象喪失では、失ったその悲しみをどのように体験し、こころの中に整理していくかということがテーマになりますが、その反応のひとつに記念日(命日)反応があります。
 記念日(命日)反応とは、そのことばが表すように、亡くなられた方にまつわる記念日や命日が近づくにつれて、悲しみの気持ちや罪悪感が高まったり、体調が悪くなったり夢を見ることなどをさします。

4.こころが回復していくために

 こころが回復していく力を心理学では、「自己治癒力」や「レジリエンス」と言い、人は本来、誰もが自然に回復していく力をもっていると考えられています。
 しかし、傷つきの体験があまりにも大きすぎたり長く続いたり、あるいはもともとの性格のタイプやその方が置かれている環境等によって、こころのしなやかさが失われて、回復に時間がかかることもあります。
 また今はコロナ禍ということもあり、人と関わることのその質(内容)が以前とはだいぶ変化しています。マスクをつけた生活をすることによって、相手の顔の全体像がわからないことも普通になりましたし、誰かに直接会って話をする機会もずいぶん減りました。
 災害で傷ついたこころが回復していくとき、何が重要なのでしょうか?
 その答えにはいろいろなものあるとは思いますが、その中でひとつあげるとするならば、やはり人とのかかわりのような気がします。自分のことに関心をもってくれて理解しようとしてくれる人がいるかどうかは、こころの回復にもたらす影響は大きいように思います。
 こころが弱っているときには、まわりを見渡してみて、誰かに話しをして、ひとりで抱え込みすぎないようにしていただきたいと思います。また、先にお話ししたようなこころの問題が生じてしまったとき、あるいはご自身のことについてもう少し理解を深めていきたいと思われたときには、お気軽にお訪ねいただけたら…と思います。


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